
『・・何処かしら、ここは・・
でもこの扉、前からずっと知ってた気がする』
そのお屋敷の前を通るたびに扉を見いってしまう。
紗月は懐かしいような、
また反面、不可思議な感覚を覚えた・・。
・・
今は仕事を離れて、
少し街より郊外のマンションで、
好きだった男性と生活していたのだが。
日課になっていた、
散歩がてらの買い物途中に、
周囲の景観には似つかわしく無い、
かなり古い洋館があり・・
紗月はその前を通るのがちょっと楽しみでもあった。
『あの扉が開いて、
誰か出て来たりしないかな・・』

彼と暮らす前に、
紗月は大学で同じゼミだった、
親友でもある眞知子にその話をしていた。
眞知子は喜んではくれたけれど、
目の前の紗月の目が、
結婚をする前の女性とは異質のものを感じていた。
運命的な出会い? で再会して、
好きだった元カレと暮らすような、
いわばキラキラとしたものが無かったからだ。
「ねえ、本当にそれでいいの?
別れて良かったって、
前にはスッキリしたって言ってたよね
運命って言葉に逃げていない?」
「・・大丈夫よ眞知子、
心配しないで、
たぶん、こうなるのは決まっていたのよきっと」
またか ー
最近では安での少女漫画でも
使われないのが運命とか決まっていたとか。
最初から決まっていたって、
聞いたらやはりどこかおかしいと感じた。
いや、
これまでの彼女の友達が聞いても、
何処か違う場所にでも行ってしまっているかのような。
紗月の雰囲気が、
ずっと前から
知っているような感じじゃないのが気掛かりだった。
が・・
それが眞知子が聞いた、
彼女の最後の肉声となってしまった・・。
・・
毎日は安堵と平穏とたまの散歩という、
会社にいた時とは真逆の時間が流れていた。
その中でも、
古い洋館は今の紗月の気持ちを象徴しているかのような。
更に毎回、その前を通るたびに ・・
『この素敵な扉が開いてないかな』
などという、
ファンタジーの世界めく欲求にも呆れてしまう。
紗月は小ぶりなエコバッグを持ちながら、
何時も誘い込まれるようなドアを眺めた。
意匠を凝らした木彫りは、
以前に初めて旅したパリでの、
路地裏のひっそりとしたホテルの扉に似ていた。
アール・ヌーヴォー様式と言うのだろうか、
蔦や木の葉が波のような曲線で描かれ、
描かれている模様は深く彫られている。
なかなか見たことが無かったし、
第一、政令指定都市にもなっていないこの街では、
古い洋風建築物なんて、
維持費が掛かるからと倒されていたと思う。
また今日も眺めながら、
故意に何時もの道として選んでいた・・。
「紗月ちゃん、今日も洋館へ行っていたの?」
帰宅した秀一に冷えたビールを出し、
茹でた枝豆を添えると、
開口一番、そんな風に聞かれた。
「そうよ、本当に素敵な家なの」
彼女の口元を見つつ、
彼はでも何だか心配になっている自分を感じた。
実は何度も聞いたそのお屋敷というのを、
気になって見に行った事があった・・。
車で通過しながら、
スマホの地図でも確認したはずなのに、
まさか建物すら無く、
幾度か往復してみたのに、
やはりさら地になった土地があっただけだった。
『・・まさかね、
でも、わざと嘘をついているのかもしれない』
秀一は何時になく嫌な気分に陥っていた・・。
・・
m(u_u)m ここでおねがいいたします☆



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